(2021年9月30日に更新しました。)

近年ますます注目を集めるアメリカのM&A。
特にアメリカへの新規事業進出の際の手段として、M&Aを検討される日本企業が増えているように感じます。

そこで、本記事では弊社の20年の実績をもとに、アメリカのM&Aについて解説。
M&Aが伸びつける理由やメリット・リスクはもちろん、M&A成功のための4つのポイントや具体的な事例もご紹介していきます。

米国での事業買収を検討されている方のご参考になれば幸いです。

アメリカのM&Aの市場の2つの動き

アメリカM&A市場の動き その1:大手企業の市場争い

今世紀に入り、大手企業は通信や環境の産業構造の変化で様々な舵取りを迫られています。
それを自社内で、しかも世界規模での変革を数年でこなす事は至難の技です。

そこでM&Aを活用し、有望な企業と合弁・買収を経て変革を行い続けることで、市場争いの優位性を維持する動きがあります。

アメリカM&A市場の動き その2:中小企業の先駆的な戦略

2つ目は大手優良企業と比べた際に、中小企業の特徴をM&Aで生かす事です。

それは判断力(速度)、価格、物流、変革に代表される融通さ。北米市場でいち早く新文化、技術、アイデアを取り入れ、日本や世界各国に自社の強みを乗せて変革していく事です。

アメリカでM&Aが伸び続ける理由

一般的に、M&A、事業の買収・合併というと数億、数百億の案件をイメージされる方が多いですが、アメリカでは数万ドル(数千万円)規模の小規模のM&Aが日常的に行われています。業態も飲食店から製造業の部品など様々な分野での事業売買や合併が行われています。

数万ドル(数千万円)単位の小規模 M&A の多さがアメリカでの伸びの大きな理由です。


アメリカでは小規模のM&Aが繰り返し行われている

 

アメリカでのM&Aのメリット

アメリカにて新規で会社を登記し、すべてゼロからスタートすれば会社の債務リスクはありません。その代わり、社歴いわゆる暖簾や看板を全て作り、融資や取引契約が成立するまでに1〜3年は掛かります。その後利益を出すまでにさらに1〜3年。合計5年はかかると言われています。

その期間を少しでも早めるためにM&Aを活用します。

M&Aを行うことで、財政面での先行きの見通しも立てやすくアメリカ事業の失敗のリスクを大幅に軽減することができます。

アメリカでのM&Aのメリットは次の4つになります。

1. アメリカで頻発する6ヶ月遅れを防ぐことができる

アメリカで事業を行う際に留意しておくべきポイントとして、「ほぼスケジュール通りにはいかないということ」です。

飲食店、路面店、オフィスを新規で借りて、施工/認可を取得していく場合、

予算や期間も業者のペースとなり、費用は当初の想定の倍、『開業までに6~12ヶ月遅れる』というケースは頻繁に発生します。工場やR&Dセンターの開設となるとその期間は更に伸びます。

特に許可取得が困難なアルコール、食品、特殊品の場合は地域によって販売許可取得期間も大幅に予定が狂います。

一方、既存の事業を買う場合、事前に調査/実態をしっかりと確認し、事業計画を堅実に立てれば、ズレを最小限に抑えることができます。

2. アメリカでの販売網とライセンスの確保

「日本の_____は絶対アメリカで売れる!」と思うことがあるのではないでしょうか?

しかし現実は、どれだけ製品が良くても、アメリカでの売り方・販売網が確立できず、可能性を持ちながら売れないケースを弊社では見て参りました。

様々な情報・アイデアがあるのが日本人ですが、販売する物に注目しがちです。

アメリカでは何より販売網、営業の契約ネットワークを保持している会社がとても貴重です。

例えば、Safeway、Luckyのようなスーパーマーケット、TARGETなどチェーン店と取引契約があるような会社を買収ができれば、『日本製品を輸入して卸す。』『弁当を作り毎日卸す』このような自営業も数億のビジネスにすることも夢ではなくなります。

販売の目的であれば、“同業界で理想な販売網”、“顧客契約を保持している先”、“購買や調査も同様なことを行っている先“。飲食店では居抜きの店舗で、理想はライセンス/許可/アルコール販売ライセンスを保持している店舗とその会社を探してみてください。

M&A先の企業探しのサポートが必要な場合は、一度お問い合わせフォームよりご連絡ください。

3. 結果的に事業スタートのコストを安く抑えることができる

M&Aというと数億規模を想像される方が多いかと思いますが、前述の通りアメリカでは小規模事業のM&A案件も多く存在します。

昨今特に飲食店の売却が非常に目立ちます。例に挙げると、San Mateo市、Burlingameの商店街、Mt View市、Palo Altoの商店街などでは、馴染みのお菓子屋、サンドイッチ屋、チョコレート屋などの店舗が、賃貸権利付で$8万~$20万ドル(850万円~2150万円)の範囲で売りに出ています。

もし自身でいちから不動産を探し、契約、施工をするとなると、まずこのエリアでは最低$25万ドル(約¥2700万)の経費が掛かり、日常的に工事が遅れるのでそのロスでさらに3~6ヶ月の家賃・タイムロスが発生し経費がかさんでしまいます。

4. アメリカのビザ取得の可能性

金額が重要となりますが、M&A後に会社を登記し、出資金で買収をすれば、投資の就労ビザが自ら取得可能となります。ケース(額)によっては永住権を取得する事も可能です。

例えば、E1投資/E2貿易ビザの場合は過半数も株主が日本国籍(個人/会社)であるなどの取得条件をクリアする必要がありますが、個人(元駐在員)資本金20万ドル(1800万円)で米国事業を開業し、自身でビザ取得。年商9千万円($880,000)まで成長されている事業の方もいらっしゃいます。


アメリカでは工場はもちろん、オフィスやレストランなどの工事がスケジュール通りにいかないことは日常茶飯事

 

アメリカでのM&Aのリスクとデメリット

魅力ばかりが目立つM&Aですが、M&A特有のリスクも存在します。

「アメリカでのM&Aは5件に1件しか成功しない」と言われており、特に文化が大きく異なるアメリカ企業の買収を行いますので、そのリスクは大きくなります。

それではアメリカでのM&Aの代表的なリスクとは何でしょうか?

[M&Aの代表的な3つのリスク]
1. 買い手と売り手、情報の非対称性により、高いM&Aになってしまう場合。
2. 不良資産や簿外債務など、M&Aのスキーム次第で、売り手の事業に引き継ぎたくない資産や負債があっても引き継がなくてはいけない場合がある。
3. 売り手の従業員を抱える場合、既存の社風、従業員の待遇等、会社の慣習等の変換の壁

これらに加えて、M&Aの担い手の少なさもリスクの一つです。
特にアメリカでM&Aを交渉からその出口・軌道に乗るまで担当をされた方は、非常に少ないのが現実です。


クロスボーダーのM&Aでは、売り手企業の社風・慣習を理解することが大きな壁。

それでは具体的にどのようなポイントに気をつけるべきか?

それは「双方にとってメリットのある友好的なM&A」であることです。

アメリカM&A成功4つの秘訣 – 友好的なM&Aが鍵

70年代~90年代初頭まで流行った、TOB(株式市場での公開買付)、HTO(敵対的買収)などをM&Aとして捉える方は多いのではないでしょうか?

このようなやり方では、買収後社員のモチベーションが続かず、うまくいかないケースがほとんどです。売り手企業はもちろん、売り手企業の社員にとってもプラスになるような友好的なM&Aを前提に戦略を練ることが必須です。

以下では、具体的に押さえておくべきポイントをご紹介します。

ベスティングを使って主要人員のモチベーションを維持

M&Aを交渉する際の売り手側の幹部は、その支払われる買収金額に目を向け、その後の会社・社員・社会の貢献には無関心であるケースが多いです。

買収後の事業運営で重要になるのは、その会社に残る社員です。

そのため、交渉先の幹部に対してだけではなく、その後の重要な鍵となる幹部主要人員・社員への配慮が必要になります。実際に、弊社が担当したケースで買収資金を残った社員にまで届けることが、鍵となったケースを数多くの案件で見てまいりました。

具体的には買収資金を彼らに3~5年かけて報酬的な配分をする『Vesting・ベスティング』と言う手法を取ります。『お金で釣る』と言うのではなく、『買収によって社員や社会を潤す』ことが成功の鍵を握ります。

他にも、売り手側の経営者をコンサルタントやアドバイザーとして一定期間引続きの協力を求めることができれば、米国で事業を行う上で、運営が比較的スムーズに進みます。

買収後の経営が成り立つかを事前に確認

基本的なことですが、のれんの価値、従業員・オーナーの価値、営業時間、客単価、客の回転、リピート率、総客数、季節要因、産業構造など、様々な要因を紙に落とし、表で計算をする事が重要です。

実質的な交渉の前には財務・法的な証拠を入手し確認し、『財務上購入価格と買った後の経営が成り立つか?』を確認・納得する事が重要です。

好き嫌いでの買収は失敗を招きます。あくまでも収支にこだわってください。

  1. 売上、仕入れ、人件費、家賃の4大要素を確認。
  2. 現金の出入金を確認。(特に飲食の場合は原則現金商売です。)
  3. 財務諸表最低5-10年分とその実態との差を読んでください。現金の流れを把握する。
  4. 店の価値を明確に提言できるか?オーナー・従業員の価値、店舗・路面店事業の価格はおおよそ、$100,000~$350,000程度。


M&Aを成功させるためには愚直に計算・シミュレーションを行うことが重要

無形資産にも目を向ける

バランスシート上の数字やDCF法 (Discounted Cash Flow) などの企業価値の算出を行うことも重要ですが、それと同じくらい重要なのが買収先の企業の無形資産です。

買収先の株主、会社の強み、モラル、資産を見極めることがM&Aの成否を分けます。

さらに、そもそものM&Aの目的を明確に持ち、元来の自社・自身の強みを生かせられるかを考える必要があります。

M&Aのコンサルタント・アドバイザーをつける

アメリカでの事業を買収する際、法務面や税務面のケアも含めて、必ず信頼できるアドバイザー、弁護士や公認会計士等にご相談ください。

買収、M&Aには失敗がつき物です。特に文化・考え方の異なるアメリカでは現地の商習慣に明るいコンサルタント・アドバイザーをつけることをおすすめします。

何事においても100%成功ということは難しいですが、専門家をつけることで失敗する可能性を1%でも減少させることができます。

アメリカのM&Aコンサルタント・アドバイザーを選ぶ際のポイント

それではアメリカでM&Aをする際にコンサルタント・アドバイザー選びの際に押さえておくべきポイントは何か?

これまで20年以上、M&A業に携わった経験をもとにお話させて頂きます。

アメリカM&Aコンサルタントの選ぶポイント その1 – 買収後の責任を持てる

前述の通り、M&Aは”その後”が全てのカギとなります。

買収を判断するコンサルタント・アドバイザーが買収後の支援も行い、全てに責任を持てる事が重要です。

日本国外のM&AをMBAや経営企画部などで数年勉強・担当され、専門知識のある方が関わるケースが大半ですが、その後の事業融合を成功させた方は少ないため、このポイントはとても大切になります。

成功のためには、コンサルタント・アドバイザーはクライアント様のM&A後の許容範囲、担当者、本社幹部を良く把握できている必要があります。M&Aを財務書類など、数字のみで判断するのは危険です。

アメリカM&Aコンサルタントの選ぶポイント その2 – アメリカ式の職務概念を理解している

コンサルタント・アドバイザーがM&A先のアメリカの会社の本質を知っている事は重要です。

アメリカは成果主義。

いくら社風や商品・サービスが良くてもアメリカ式の成功報酬や職務の概念を把握できなければ優秀な人は長く続きません。優秀な人がどんどん離れてしまうと、結果M&Aも失敗に終わります。

買収先の社員の中には、買収を決める方の年収を数倍・数十倍稼ぐケースは多々あります。監督は選手より年収は低いのが米国。

買収先として稼げることはもちろん、日本本社の企業文化を守りつつ、融合が可能なアメリカ企業を見抜けるアドバイザーであることが重要です。

アメリカM&Aコンサルタントの選ぶポイント その3 – 経験豊富である

最終的にはやはり経験が物言います。様々な業界、人材、経営者との交渉能力がある事。

さらに、柔軟なアイデアを企画提案してM&Aを収められる人員は重要です。

例えばM&A先の創業者、大株主経営者、主要人員幹部の扱い、M&A後の対応、責務の契約、支払い条件(成功報酬、期限付き、条件付分割等)を総合的に企画、交渉できる事は重要です。


アメリカの職務概念を理解していないと、買収後に離職が続出する自体になる。

 

アメリカM&Aの事例

本記事の最後に弊社がサポートさせて頂いたアメリカでのM&A事例を2つご紹介させて頂きます。

事例1: アメリカ現地の企業との合弁

背景: 
米国で現地法人を立ち上げ18年のお客様。
継続した赴任者の候補もおらず、現地法人も年々規模と利益が減少。
アメリカ子会社の閉鎖も考えたが、北米の市場は閉めたら将来の本社のグローバル化、展開の可能性も消えてしまう点を懸念。

提案 & 成果:
米国での展開、理想を伺い、取引先の小規模の会社(事業)の買収を提案。
現地法人と合弁をし、過半数の株式を保有。経営は今までの米国スタッフに一任。

弊社では年に数回の役員会議、株主議決の代行をさせて頂き、事業は継続をして頂いております。

事例2: 利益を多く取られる販売代理店からの脱却

背景:
北米で細々と販売をされていたメーカーのお客様。
1980年代より米国中堅企業が米国で販売の代理店を行っていたが、利益を多く取られていたので販売拡散に繋がらなかった。

提案・成果: 
毎年アメリカの展示会で幹部の方々が渡米し、理想の取引先の話をしており、弊社で買収を提案。
結果、買収には至らなかったが、日本の製品を扱う合弁会社を設立。
関わっていた米国スタッフに移籍していただき、米国人幹部を起用し立ち上げて運営。
その後、数年かけて過半数の保有比率にあげて拡張されました。

まとめ

本記事ではアメリカのM&Aについてお伝えしました。

言語も商習慣も異なるアメリカですが、M&Aを上手に活用すれば、新規事業立ち上げに比べて大幅にリスクやコストを下げることができます。そのために本記事が参考になれば幸いです。

ジャパンコーポレートアドバイザリーでは、サンフランシスコ・シリコンバレーを拠点に米国全土にてアメリカ事業のM&A、事業再編・売買、投資をサポートしております。

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